legal office(法律事務所)に恋の罠
「しゃ、社長。こんな時間にどうされましたか?何か問題でも?」

Hotel Blooming東京のフロント担当、夜勤主任が奏と和奏が連れだって入ってくるのを見て、頭を下げた。

主任と一緒に接客をしていた女性が、和奏に駆け寄り、手荷物を受け取ろうとする。

「荷物は私がお持ちするから大丈夫だ。それと、社内の規約や就労規則、約款などの早急な見直しが必要になったため、しばらく、夢谷弁護士にはこのホテルに滞在してもらうことになった。すぐに部屋を準備してほしい」

ホテルには、急なお得意様のご要望にもお応えできるように用意されている部屋がいくつかある。

フロント主任は頷くと、35階のセミスイートルームのカードキーを奏に手渡した。

「ありがとう。では私が案内します。こちらへどうぞ」

奏が和奏を部屋に案内しようとした時、既に時刻は23時をまわっていた。

ホテルのスタッフからすれば、この二人の関係を疑う要素はありすぎて困る状況だ。

しかし、堂々とエスコートする奏は社長の顔をしているし、和奏も男嫌いと評される完璧なアイアンフェースを保っていたため、懸念するほど邪推されることはなかった。

「ああ、そうだ。三浦主任、この花とこちらの鉢植えを明日の早朝にでも、仲川芸能事務所の宇津井弁護士に送っておいて欲しい」

振り返った奏が、主任に手渡したのは、

和奏に送られた先程の

黒薔薇"ブラックバカラ"と、

細く長い葉が特徴的な小振りな黄色い花の咲く鉢植えだった。

「珍しい黒薔薇ですね」

主任は丁寧に花束と鉢植えを受け取った。

「了解致しました」

と微笑むしぐさからは、花言葉に関する知識はないらしく、純粋に贈り物と思っているようだ。

鉢植えの正体は、

"アスパラガスの花"

花言葉は

"敵を排除"
"私が勝つ"

文字通り、奏の宣戦布告だった。

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