legal office(法律事務所)に恋の罠
「俺の会議中を狙ってホテルを訪れ、和奏に接触したのか?宇津井の奴、思っていた以上に厄介だな」

警備室で、松尾と共に監視カメラの録画データを見ていた奏が苦虫を潰したような顔をしていた。

スーベニアショップを出て歩き出す和奏の横に並び、馴れ馴れしく肩に手を回す宇津井。

そして、迷惑そうな和奏を無視して、彼女の顔の近くまで口元を押し付けようとする宇津井。

奏は、今にも殴りかからんばかりの表情で画面を見ていたが、松尾が必死で止めたので、幸いにも録画データを見終わるまで、機械を破壊せずに済んだ。

監視カメラの位置を把握してからの行動だろう。

カメラの死角になるように、宇津井が何かを和奏に渡したようだった。

「和奏から何か聞いていないか?」

「"いいつけを守れよ"と言っていたので、我々にとって都合のよいものでは無さそうですね。和奏さんに聞いても教えてはもらえませんでしたし、何か脅されているのかもしれませんね」

松尾が肩をすくめる様子を見て、

奏は、和奏の持ち物に盗聴器をつけておかなかったことを本気で後悔した。

本人の同意もなく、しかも、弁護士相手にそんなことをしたら,間違いなく犯罪者扱いされるのは目に見えているのだが、彼は本気でそう思っていて、実行に移さなかったことを後悔するほどに怒っていた。

「このあと、夢谷弁護士は、当ホテルのスタッフと面談をされているようです。スモークガラスを使用されているので、中の様子は見れませんが、後でその女性スタッフを呼んで話を聞きましょうか?」

「だめだ、そんなことをしたら、和奏を顧問弁護士にした意味がなくなってしまう」

奏は、躊躇うことなく首を横に振った。

「しかし、俺のスケジュールを把握していると仮定すると、おそらく、このホテル内に、宇津井と内通している奴がいるのは間違いないな」

奏は、あらゆる可能性を頭の中で試算していた。

"もしかしたら・・・"

ある共通点に思い当たった奏は

「あのやろう・・・!」

と呟くと、次の瞬間テーブルを拳で叩いていた。

しかし、悔しそうな顔もほんの一瞬で、挑発するようないつもの強気な奏の笑顔に変わった。

「松尾、調べて欲しいことがある」


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