legal office(法律事務所)に恋の罠
「どれもこれも、稚拙で単純な方法ですが、戸松さんと柚木崎の言っていることが本当だと証明するには時間がかかりますね」

和奏は溜め息をついて説明をした。

「戸松さんと柚木崎さんを、宇津井の起こした今回の騒動の被害者と仮定した場合、被害者供述の信憑性を証明するのは裁判所になります。一方の供述だけを信用するやり方は、免罪を生む可能性があるからです。

裁判所には、自由心証主義といって、供述証拠の信憑性を自由に判断する権利がありますが、その決め手として、客観的証拠の有無や供述の一貫性、具体性、迫真性などが判断材料となります。

戸松さんと柚木崎さんが、奏さんからセクハラ被害にあったという供述は、写真という証拠もあり、客観性があります。

しかし、

"本当は宇津井に強要され、利用された"

と松尾さんに語った言葉だけの内容は、客観的証拠に乏しく、場合によっては、Blooming Hotel側から強要されて言わされた、とも捉えられかねません。

一方では、訴えを簡単に覆していることから、その後の発言に一貫性がなく

彼女たちの発する言葉はどれも信憑性が低い、とみなされることもあります。

戸松さんと柚木崎さんへの宇津井からの現金譲渡に関する受領書などがあれば、客観的証拠となりうるのですが・・・。」

松尾も奏も身動きひとつせず、和奏の説明を聞いていた。

「私もクライアントと面談をするときは、前もって、会話を録音させてもらう旨を説明しています。今回の写真のメンバーの会話ももちろん録音しています。

松尾さんには、戸松さんと柚木崎さんとお話をされた際、録音をお願いしていましたが、実行されましたか?」

「はい。こちらが被害者の立場として秘密録音させていただきました」

松尾の返答に、和奏も頷いた。

「当事者間での通話において、お互いに意図して話している内容は公開しているとみなされます。

その話した本人に責任があると考えられているので、秘密録音でも悪意がない場合は、裁判所に認定され法的根拠に成りうる可能性もあります。

ただ、偽装の可能性があるので、音声鑑定が必要となりますが・・・」

いずれにしろ、問題が解決する前に、噂が拡散してしまう可能性が高い。

しかし、奏には何か秘策があるのか、余り焦っているようには見えず、和奏は一人不安な気持ちをもて余していた。
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