legal office(法律事務所)に恋の罠
「和奏はどこまでも甘いな」

「そういう奏さんだって・・・。ネットを使って名誉を傷つけられたのに、この程度で済ませて良かったのですか?」

Hotel Bloomingの弁護士執務室を訪れて、お茶を飲む奏に和奏は微笑んで尋ねた。

「あの程度の悪意は、これまでだっていくつも対処してきたからどうってことないよ。それよりも、長年和奏を苦しめてきた宇津井を叩きのめす機会を貰えたんだ。必要悪だと思うしかないな」

同じソファの隣に座る和奏を抱き寄せると、奏は和奏の頬にキスをした。

「こうして、和奏の笑顔も全部俺のものになった。あいつにも少しは情状酌量の余地を残してやらないとな」

甘い雰囲気が充満するオフィスに

「奏兄さん、仕事中ですよ!」

と元気な声がこだまする。

突然入ってきた莉音に驚いて真っ赤になる和奏と対照的に奏は平然としている。

「なんだ、莉音。今は休憩中だぞ?」

「兄さんが和奏さんを溺愛してるのはわかりました。だけどね、和奏さんの仕事の邪魔をするなって父さんと母さんからの伝言です」

宇津井からの呪縛から解放された和奏は、Hotel Blooming東京の企業弁護士として再契約を結び直し、山崎legal officeから独立することを決意した。

奏の婚約者候補として、企業弁護士として目下、ホテルのことを勉強中だ。

「しかし、山崎弁護士はすごいな。何年もかけて、揺るがぬ証拠を集めて、ここぞというときに相手を叩きのめす。絶対に敵に回したくないタイプだ」

「そうですね、庄太郎叔父さんは私の尊敬する弁護士ですから。それこそ、山崎弁護士の弁護は負けなしなんですよ」

そう言って和奏は嬉しそうに笑った。

その心からの笑顔に、奏は和奏をところ構わず抱き締めそうになってしまう。

奏が必死で理性と戦っていると

「あら、兄さんも山崎家と親戚になるんだからいいじゃない」

と、莉音がからかってきた。

「そうだな。莉音のお義父さんになるかもしれないしな」

"ブフォ"

と、奏の反撃にお茶を吐き出しそうになる莉音のリアクションは、どこか湊介に似ていて微笑ましかった。

「や、やだ、兄さん、私はまだ21歳よ。結婚なんてまだまだ先じゃない」

「物事に絶対はないぞ」

「そうね、兄さんが一目惚れして結婚しようとするぐらい、あり得ないことも起こる世の中だしね」

微笑ましい兄妹のやり取りに和奏は益々笑顔になる。

「くっ・・・ちょっと・・・、和奏。俺以外に、笑顔の安売りは止めてくれないか。気が気じゃない」

「やきもちは嫌われるわよ。兄さん」

和奏に心からの笑顔を取り戻してくれたのは、間違いなく山崎親子と桜坂兄妹だ。

和奏は、この必然的で運命的な出会いに心から感謝をしていた。

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