海賊船 ~天下は誰の手に~
第2章「信玄の回想」
数十年前。俺は物心ついてすぐに捨てられた。行き場をなくしていた俺を謙信の父親が拾って育ててくれた。俺にとってはあの人が俺の父親だった。
だが、最初は疑心暗鬼で、人を信じることが怖くて仕方なくて、自分の生きる意味なんか見いだずにいた。だから戦場が俺の本当の居場所だと思っていた。
「確かあれは寒い秋の日でしたね……私の父上にご報告にし陸へ降りた時、枯葉に埋められているように、まだ幼い官兵衛と半兵衛が捨てられていたのをあなたが手をつなぎながら館に連れてきたのでしたね……」
「そんなこともあったな……」
そう言って俺は無愛想に返事をする。俺が捨てられてから数年後、俺と同じ場所に捨てられている子供がいた。それが官兵衛と半兵衛だった。場所も、季節も同じ。
でも、ひとつ違ったのが、あいつらの目だった。あの日の俺はきっと死んだような目をしていた。生きる意味なんてなくて、死にたくて仕方がなかった。
でも、あいつらは違った。生き生きとした目をしていた。生きたいという意思が伝わってきた。
だから俺はあいつらの手を取り、家に連れて帰った。
「ええ。あの頃から少しづつまともにはなってきましたね。戦場で迷子になる数も減りましたし。」
「あの頃は官兵衛と半兵衛の世話でいっぱいいっぱいだったからな。あいつもあいつで手が焼けたよ。」
官兵衛と半兵衛は好敵手のような関係で、いつも張り合っていた。本船では2人して一日中素振り、戦場でも倒した敵の競い合い。でも、縁側で一緒に寝たり、甘味を二人で食べたりと、2人は本当の兄弟のように仲が良かった。
ある事実が発覚するまでは……