うちの兄が不良すぎて困る。
「たしかに朔也は不良だし、喧嘩もめちゃくちゃ強いけど、自分から吹っかけたことは一度もないよ」
「………」
「まあ、相手が手を出してきたら容赦なくボコボコにしちゃうから加減はあんまり知らないみたいだけど」
お兄ちゃんは昔からそう。
喧嘩と言っても子供の悪ふざけ程度のことだけど、私はお兄ちゃんが負けた姿を見たことがない。
「……日比谷さんも喧嘩が強いと噂で聞きました」
「朔也ほどじゃないよ。それに俺も無闇に喧嘩したりしないよ。守りたいものがあれば別だけど」
……守りたいもの、か。
お兄ちゃんも友達がやられたらすぐに飛んでいく。ご飯を食べてる途中でも真夜中でも、関係なく。
もしかしたら昨日のスコップも誰かを助けにいったのかもしれない。けど、それでも……。
「喧嘩は危ないです。私はお兄ちゃんにそんなことしてほしくない」
強くなくていい。慕われなくていい。
だから、私の大好きだった頃のお兄ちゃんに戻ってほしい。
「雛子ちゃんは優しいね」
日比谷さんはそう言って、私の頭を撫でた。
その手があまりに大きいから、心臓が無条件にドキドキした。