うちの兄が不良すぎて困る。
「ごめんね。みんな女の子大好きだから」
制服姿じゃない日比谷さんは少し大きめのGジャンを着ていた。ピアスも左耳にひとつだけだし、不良というよりはカッコいいお兄さんって感じだった。
「もう帰っちゃうの?」
「はい。用はもう済んだので」
お兄ちゃんはさっそくスマホをカチカチいじっていた。そういえば届けたお礼すら言われてない。
「予定がないなら一緒に遊ぼうよ」
「え?」
「なあ、いいだろ。朔也」
日比谷さんがお兄ちゃんに問いかける。
「邪魔さえしなければいいよ」
「だってさ。これから移動しようと思ってたところだったし、雛子ちゃんは俺の後ろに乗りなよ」と、日比谷さんがヘルメットを差し出してきた。
他の不良たちも次々とバイクに股がってエンジンをふかす。一気にうるさくなる空間で、私だけがまだ状況に付いていけていなかった。
「わ、私、遊びになんて……」
言い返したか細い声はバイクのエンジン音によって簡単に掻き消されてしまった。
……どうしようと困っていると、お兄ちゃんが私の腕を掴んだ。
「お前は俺のバイクに乗れ」
そう言って、日比谷さんが渡してくれたヘルメットを私の頭に被せる。