レンダー・ユアセルフ
「僕の望みを言ったら、きみを困らせるだけかもしれない」
その手がアリアナの豊かな髪を一束掬い上げ、言葉を紡ぐ場所で口付ける。
妖艶すぎるその様に、狼狽にも似た感情が彼女の胸中を駆け巡っていく。
「……ジョシュア」
言わなければならない。彼の言う『望み』が彼女の想像通りであるならば、すでに純潔を失った身であることはジョシュアに伝えねばなるまい。
『未亡人』として振る舞う彼女を見て城の人間は純潔だとは思っていないだろう。しかしながら、ジョシュアは違う。彼だけはアリアナが未だ嫁いでいない身であり、他ならぬチューリアの王女であることを知っているのだ。
「ごめんなさい」
謝罪が先に口を衝いて出てきてしまう。こればかりは、いくら懺悔を重ねたところで事実を変えることは叶わないのだ。
「私は──」
アリアナを純粋に想うジョシュアに告げることは酷だと知っていた。しかしながら、彼への申し訳無さは勿論感じても、彼女自身あの晩の出来事を厭うことは少なくなっていた。
だがその事実に対しアリアナが向き合うことは、まだ無い。
明らかに平常とは異なる彼女を見つめるジョシュアの眸。未だアリアナの身を離すまいと囲う腕から逃れるように手を突き立て、視線を逸らした彼女は遂に切り出した。