レンダー・ユアセルフ

/ミーアの一途な願い




アリアナには疑問に思うことがあった。

あの晩──できれば思い出したくもないのだが──ジーファに抱かれたというあの夜、彼女は一度たりとも目を覚ましてはいないのだ。

それは紅茶に混ぜられていた睡眠薬のせいだと信じて疑わなかったが、あんなにも痛みを伴ったのだ。指では無く、もしも本当に性交に及んでいたとしたら。自らの命の危機すら感じてしまうほどの痛みを受けても、果たして目覚めることはないのだろうか?





ジョシュアに指を挿入されたときに強く感じた痛み、そして異物感。
あの晩が明け、朝目覚めたときも下肢に違和感など無かった。……何より、普段通りに行動できたことが一番の証拠と言える。

もしもジーファの言う通りアリアナが破瓜を経験していたとしたら、翌日痛みや違和感が全く無いというのは有り得る話なのだろうか。







「……今更考えても仕方ない、か」

「アリー様?」

「ごめんなさい。ちょっと考え事をしていて」



誤魔化すように笑んで、ミーアが淹れてくれた紅茶のカップを口に運ぶ。




ジョシュアとの一件を経てから、彼と直接会っていない。暫く日数を跨いだと思うが、彼女自身根底では未だ割り切れていないのだから、有難いとも思っていた。


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