レンダー・ユアセルフ
「……本当に、失礼なことを訊いてしまってごめんなさい」
アリアナの伸ばし掛けた腕は宙を彷徨い、そのまま指先を丸めて自らの胸の上へと落ち着いた。
気落ちする彼女を尻目に、ミーアは至って平静を装っている。
「お気に病むことなど決してございません。わたくしは、ジョシュア様の幸せな顔を見られることが喜びなのですから」
「……」
「王妃様によるジョシュア様への扱いは到底容認できません。だからこそ、そんな窮地を救ってくださった貴女様には感謝を申し上げなければならないのです」
優しい言葉を掛けられるたびに、心臓がツキンと音を立てて痛む。
アリアナは自問した。幾ら王妃様ほど辛く彼に当たっていないからと云って、果たして自分はジョシュアを笑顔にできているのだろうか?
シャムスに来てからというもの、彼はいつも暗闇に沈んだような表情で悲しく微笑んでいる。そうさせてしまっているのは、他ならぬ自分自身ではないのだろうかと。
「アリー様」
皮肉にも、そう呼ばれることがアリアナの心を大仰なほど揺さぶった。
信頼を欠いてしまったとばかり思っていたミーアの頼みであるからこそ、彼女は出来うる限り叶えてあげたいと願ってしまうのだ。
「お願いでございます。あの方と、ずっと共にお歩みになって下さいませ」
──幾らそれが、彼女自身も気付かぬ心根や本心とは違うものであったとしても。