レンダー・ユアセルフ
それに彼には前科があった。アリアナと彼の婚約を許すに至った事の発端が、城下にくだっていた彼女をジーファが捕えたことだったのだから。
今のように彼らの関係が公表された上でジーファがアリアナを囲おうと、取り沙汰されて提議される事柄で無いことは間違いない。
だからこそ父王はジーファに娘の行方について書面にて尋ねたのであるが、書かれていた答えは今のチューリア王宮内を目にすれば火を見るより明らかだろう。
「お父様」
玉座で項垂れる国王のもとへ一筋の華奢な人影が差す。洗練された口調と上品な雰囲気を纏う女性で王を「父」とする女性は、アリアナが失踪した今此処には一人しか存在しない。
「……、リリア」
「少しお話がありますの。宜しいですか?」
「ああ、……すまぬ。人払いを」
彼女の並々ならぬ真摯な面差しと差し迫った表情を認めた父王は、間近にて控えていた臣下に小さくそう告げると潔く立ち上がり、娘リリアを連れ奥の間へと姿を消す。
そんな二人の様子を、長く王宮に仕える臣下たちは皆心配一色といった表情で見守っていた。