レンダー・ユアセルフ
/噂の貴公子殿
それは二人が初めて逢った日――
アリアナは自他共に許すかなりの「お転婆」であった。勿論、今現在も尚のこと。
彼女お気に入りの遊び場所は王宮下で大きく賑わう城下町。
侍女のひとりと入れ替わるなり、泣きそうになりながらアリアナを呼び止める彼《か》の侍女の制止の声すら聞かぬままに彼女は走りだしていた。
そうなれば誰も彼女を止められる人などいるまい。
まさか自分の娘がそうして度々城を抜け出していることなど露も知らぬ国王夫妻は、事件が起きたその日も後宮より離れた場所で政務に励んでいた。
アリアナの母君である国王后は、あらゆる面で夫をよく支える妻として有名だった。
だからこそ彼女が抜け出すことの叶う環境が整っていたのだ。
もしも王妃が常に後宮に留まるような人だったのなら、一度たりとて彼女は城下町を満喫することなどできなかったに違いないのだから。
「ごめんね、ありがと」
脚を走らせる傍ら、こっそりと赤い舌を覗かせては代わりに置いてきた侍女に向けそんな労わりの言葉をおとす。