レンダー・ユアセルフ
声明を向けられた当のジョシュアの他に、臣下で気付く事が出来たのはジーファの右腕であるマルクのみで――
「殿下!」
だからこそ瞠目した彼は自らの主へと抗議の声を上げた。
そんなマルクを視線だけで制したジーファ。もう既に、彼の心は固い決意に覆われていた。
「直接貴殿に伝えたい事があったのだが、どうも互いに家臣の許しは得られぬ様だから」
護衛に集った臣下の間で警戒が強まる。そんな中ジーファの碧く輝く炯眼がジョシュアを見据え、尚も言葉を続ける。
一方のジョシュアは最早混乱を隠すことも叶わず、これは策略なのか、将又はたまた純粋な申し入れなのか――皆目見当も付かずに閉口していた。
そんな彼に畳み掛けるように、ジーファは矢継ぎ早に思いを口にした。
「貴殿と、貴殿の愛する人へ手紙をしたためて来たのだが……どうか受け取っていただけぬか」
友好条約への返答はそれを読んでからでも構わない――そんなジーファの科白を最後に、一握りの人間しか知り得ないこの密会は幕を閉じたのである。
そしてその翌日、シャムスはユースヒトリの条約申し入れを受けるとの回答をする事となる―――