レンダー・ユアセルフ
逆に言うと、だからこそ今回のユースヒトリ王子の提案に揺れ惑ってしまった。仮に、もしも彼が以前の通りにアリアナを幸せにするという自信に溢れていたなら。
彼女を一番大切に出来るのは自分だという確固たる自負を今も胸に抱いていたならば、
「アリアナ、実は――ユースヒトリの王子から手紙を預かってきたんだ」
……こんな風にジーファからの手紙を彼女に見せようとは、思いもしなかっただろうから。
カサリ、と。闇夜に浮かぶ月に照らされ、ジョシュアの胸ポケットから取り出された便箋が青白く光る。
思いも寄らぬ相手の名前にアリアナは瞠目した。動揺を隠す事も忘れ、大きく見開いた眸は見る目明らかに揺れ惑う。
そんな姿を目にしたジョシュアは、胸中苦い気持ちに覆われてしまっていた。
「……何も想わない相手だったら、ゆらいだりもしないよね」
「何か言った?」
「ううん、何でもないんだ」
小さく小さく、まるで聞かれる事を恐れるかの如く吐き出された先の独白。
それはアリアナの耳に届く事なく宙に浮かぶ。泣き出しそうに笑んだジョシュアを視界に映し戸惑うものの、彼女は二の句を継げる事が叶わない。
「読んで、アリアナ」