レンダー・ユアセルフ



「ジーファ王子はきっと、この先もずっと君のことを想うだろう」

「……」

「だからこそシャムスに友好条約の申し入れをした。ユースヒトリにとって見れば取るに足らない小国にそんなことをしたのは、」



澄んだ茶色の瞳にアリアナが映る。こんなにも好きな人。幼いときから彼女だけを想ってきた彼の想いの結晶が、煌びやかに形を成してジョシュアの背中を押す。







「――アリアナ。全部きみを護《まも》るためだよ」






皮肉にも一番敵視していた相手に気付かされるとは。心の底から大切に想うからこそ、誰よりも幸せになって欲しいという気持ちに――







「ジョシュア……、」

「さあ行って。今の時間なら国王や王妃も自室にいるから、露見することはないだろう」



蜂蜜色の清廉な眸が歪む。じわじわと涙の膜が膨れ上がり、今にも頬にこぼれ落ちそうなアリアナに畳み掛けるようにジョシュアは告げる。



「王宮を出てすぐの通りに辻馬車が客待ちをする所がある。今出発したら明日夕刻にはユースヒトリに着くと思うよ」







ポタリ、と。極限まで眸の縁に留まっていた涙がついに頬を伝っていく。

月明かりに照らされ静かに涙を流すアリアナ。その姿は誰よりも綺麗だと、ジョシュアは思う。


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