レンダー・ユアセルフ
「……ジョシュア」
桜色の唇が名を紡ぐ。以前のような欲に塗れた激情はもう、彼の中に芽生えることはなく。
"未来永劫幸せに――"
その願いがあるからこそ、力尽くで彼女を我が物にしようとは思わない。
氷のように固まっていたアリアナのジーファへの憎悪や、ジョシュアのアリアナに対する欲望が。音も無く全て溶け、穏やかな流れで彼らの身体を巡っている。
「私が言うのは筋違いかもしれない。でもどうか、信じて欲しい」
涙を残しながらも、凜とした強かな眼差しでジョシュアを見上げる蜂蜜色の双眸。
「……貴方こそ幸せになって。他の誰よりも」
「アリアナ、」
「私は貴方を幸せにすることが出来なかった。でもねジョシュア」
一度躊躇いが彼女を襲う。もしかすると当人ですら気付いていないやもしれぬ感情を口に出してしまうことが、果たして正しい事なのかと自問した。
そして暫しの逡巡を経て彼女が開口し言葉に落とすに至ったのが、
「――…貴方の事を心から想う女性が一人この地にいることを、私は知っているわ」
そんな当たり障りのない言葉だったのだけれど。