レンダー・ユアセルフ
勿論アリアナの気遣いの科白だと疑うことの無かったジョシュア。彼の中身を理解し、受け止めてくれる女性など後にも先にもアリアナ以外存在しないとすら思っていた。
「……もしそうなら、とても嬉しいことだね。さあアリアナ、」
もうそろそろ行かないと。眸を細めて笑みを湛えたジョシュアはそう口にしながら彼女の背中を押す。
後ろ髪を引かれる思いで何度も振り返るアリアナ。蜂蜜色の瞳に映る彼の姿は、一見して平素の彼そのものだったのだが。
しかしながら、今の彼を一人残して自らの道を歩むことが果たして善い選択だと言えるのか否か――もう一度迷えど、自分が居たところで彼は自身を責め立てるだろうと思い立ち、縫い止めていた脚を再度扉に向かって進めていく。
そして。
「ありがとう、ジョシュア」
出来うる限り精一杯の笑顔で彼を振り返るアリアナ。
「貴方と出逢えて…本当に良かった」
「っ、」
ジョシュアの涙腺が緩んでいく。嗚呼、この人はなんて綺麗に笑うのだろうと、眩しそうに色素の薄い瞳を細める。
「僕だって。アリアナと出逢えてなかったら、きっともっと捻くれてた」
―――最後に飛び切りの笑顔でそう口にしたジョシュアを見て、心から破顔一笑することが出来たアリアナは。
もう思い残すことはないと、大仰な扉を開けこの部屋を出て行く。
バタン、と。彼女が遂に去って行ったことを告げる無機質な其の音が室内に木霊した事を皮切りに――ずっと堪えていた涙が眦《まなじり》を、彼の頬を濡らしていった。
「……さようなら、愛するアリアナ」
最大級の愛の言葉は他に誰も居ない部屋に溶けてゆく。