レンダー・ユアセルフ

/月華の別れ




ジョシュアの居る部屋の扉を閉め、大仰な其れに背を付けたアリアナ。

目を閉じれば幼い頃から懇意にしてきた彼との思い出が今も尚、色褪せること無く彼女の心を巡っていく。



「(――…どうか、)」



彼がまた心からの笑顔を湛えることが叶いますように――。







思い掛けず険しい表情を形作っていた眉宇を指で宥め、再度決意を固めるなり凜とした姿勢で瀟洒な廊下を進んでいく。

もう迷わない。もう、後悔はしない。

振り返ることなく歩を進め、寝屋の棟を通り過ぎようとした――その、瞬間だった。



「アリー様」



窓から差し込む月明かりが良く知った女性の姿を照らしている。

凜とした佇まい。アリアナが視線を向ける先に立っていたのは、女中のミーアだった。











「……ミーア」



対するアリアナは眉尻を下げて彼女の名を口にする。

申し訳なさが胸の最奥からふつふつと顔を出す。自分はジョシュアだけでなくミーアの想いをも蔑ろにしようとしている――








"あの方とずっと、共にお歩みになって下さいませ"









そんな彼女の、ジョシュアを想う余り言葉と成った切なる願いを。


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