レンダー・ユアセルフ

/出立のとき




「ッ、!?」



無事に辻馬車を捕まえる事に成功したアリアナは、中に入ろうとして扉を開けた瞬間激しく目を瞠《みは》り動揺を顕わにした。

本来ならば、誰も居るはずの無い車内。

しかしながら目を何度も瞬かせる彼女の目線の先に居た人物、それは―――






「まあ愛しのアリアナ!ごきげんよう」



うふふ、と。瀟洒な扇子で口許を隠しながらも至極愉しげな様子は隠し切れていない。

そんな姉、リリアのお転婆振りと云ったらアリアナに負けず劣らずなのではないだろうか。



「姉様…!なぜここにおられるのですか!?」

「しっ!アリアナ、声が大きすぎるわ」



姉から叱咤を受けるなりきょきょろと辺りを見渡すと、変わり無い様相にほっと安堵の息を洩らす。







「これはどういうことなのです?」



一先ず気を取り直して馬車内の座椅子へと腰を下ろし、隣で得意げな笑みを湛えている姉にそう問い掛けるものの。



「あら。この服を見てもわからない?」

「え?」



目を丸くせざるを得ないような回答が返ってくるのみである。







まじまじと姉が身に纏う服装を見詰めるアリアナ。暗闇に覆われて中々気付くことが出来なかったけれど、漸く彼女の言わんとすることを理解した。



「……まさかとは思いますが。その女中服…シャムスに潜入されていた、なんてことは…」



頭では理解すれど、納得しろというのは無理な話であるけれど。


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