レンダー・ユアセルフ



可笑しなことだった。

国境を越えたとは言え、言ってしまえば二人の現状は他国からの観光客と変わらない筈なのだ。

それなのに兵士は自分達を、まるで捕らえるべき人物かのように言う。



「変ね」



ぼそりとリリアが呟く。







しかしながら、考えを巡らせて居られるほど状況は穏やかなものでは無く。



「逃げましょう、アリアナ!」

「姉様!?」

「何も悪いことなんてしていないのよ?黙って捕らわれる必要は無いわ!」



確かに、姉の言うことも尤《もっと》もである。

しかしながら、アリアナには思い当たる点が一つだけあったのだ。

リリアに片手を引かれながら何度も後ろを振り返る。







見えるはずだ。姉妹を追い詰めるべく虎視眈々とこの機を狙っていた、その人物が――



「―――、コターニャ侯爵…?」



ユースヒトリの中で、名の知れた重鎮であるその人物の名前。

呟かれたアリアナの言葉は、前を行く姉の耳にも入り込む。

興味本位で共に講義を受けており、当のアリアナよりも関心を持って話を聞き入っていたリリアは「まさか」といった面持ちだ。


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