レンダー・ユアセルフ
しかし、今この瞬間にも足を止める訳にはいかない。
姉妹は必死にユースヒトリの街を走り抜けていく。
そして「OPEN」と掲げられた酒場の看板を見るに付け、直ぐさま店内へと滑り込んだ。
二人が路地から消えた直後、追っていた侯爵の部下達が姿を現す。
先刻まであと僅かと迫っていた姉妹の姿が見当たらないことを認めると、焦燥を前面に押し出した表情でバラバラと散って行った。
「どうやら、上手く撒けたようね」
安堵の息を吐き出すと共にリリアが呟く。
酒場の窓際の席に着いた姉妹は、低く姿勢を屈め外の様子を窺っていた。
程なくして眼前に運ばれてきた美しいグラデーションのカクテル。
くるくるとかき混ぜると、カラカラと氷がぶつかり柔に耳朶を撫ぜた。
「さて、これからどうしましょうか」
頬杖を突き、視線を宙にぶら下げながらリリアが口を開く。
想定外の出来事が起きたのだ。
迂闊に動いてしまっては直ぐに捕らえられてしまうだろう。
これまで深く思惟するかのように、押し黙っていたアリアナが口を開く。
「私が囮になります」
確固とした意思の宿る瞳。