レンダー・ユアセルフ
「本当に頑固なんだから」
しょうがない、といった素振りで肩を竦めてみせる。
アリアナはというと、自らの蒔いた種によって姉をも巻き込んでしまったことを心底悔いていた。
――だからこそ、次は失敗できないわ。
彼女の心に深紅の炎が燃え盛る。滾る闘志が背中を押し、自分がチューリアを護るのだという使命感に満ち溢れた。
どちらにせよ、あの侯爵はチューリアという国の存在を面白く思ってなど居なかったのだ。
何も心当たりの無いまま、丸腰のところを狙われるよりはマシだろう。
深く伏せていた睫毛を持ち上げ、今一度自らを奮起させた彼女は姉を真っ直ぐに見据えた。
「では、姉様。私が侯爵の気を引き付けている隙に、ジーファの処へ行ってくださいますか?」
「それは良いけれど…本当に貴女一人で大丈夫なの?心配だわ」
「そのほうが都合が良いのです。"ユースヒトリ王子の婚約者"を葬ろうとしている、その事実が重要ですから」
もしもその瞬間を捕らえられたら、重鎮たる侯爵と言えどただでは済むまい。
「さあ、行きましょう」
美しいグラデーションを誇るカクテルは、運ばれてきたその時の状態のままテーブルの上に置かれている。
美しい姉妹は凜とした瞳でその店を後にした。