レンダー・ユアセルフ
「悪いが貴女には消えていただきますぞ。言うなればその不幸は…私に喧嘩を売ったことですな」
「あら。あまりに幼稚な動機ですこと」
フン、と。この期に及んでも動揺など一切見せず、勝気な表情で侯爵と対峙するアリアナ。
対する侯爵は又もや青筋を立てていく。
「その強気な態度、誠に腹が立ちますな。土下座で命乞いでもすれば可愛いものを」
確かに態度を改め侯爵に媚びへつらえば、生きながらえることは可能かもしれない。
生き延びた先で別の策を弄することも出来るかもしれない。
「(侯爵の娼婦として生きる?そんなの、まっぴらごめんだわ)」
しかしながら不器用なほど真っすぐに、自分の信念のもとでしか生きられないのが彼女である。
「……私を殺したら貴殿のご身分も危ういでしょうに。嗚呼なるほど、頭まで弱いのかしら」
「"誰が"貴女を殺す、と言いましたかな?」
侯爵の勝ち誇ったような笑み。それと同時に、アリアナの背筋に冷や汗が一筋つたう。
「(…うそ、まさか…)」
さすがの彼女も驚きを隠せない。
コターニャ侯爵の後ろから歩みを進めてくる人物は――彼女も知る人物だったのだから。