レンダー・ユアセルフ




「マルク将軍よ。今こそ貴殿の懸念材料を打ち砕く好機ですぞ!」





声高らかに侯爵が言い放つ。青年――と呼ぶにはまだ幼く映るその面差しは、いつであったかチューリアの市井でぶつかってしまった相手と同一人物のような気がしてならなかった。

まさか、いったい何故ジーファと行動を共にしていた彼がアリアナの命を狙うのか。






自らの知り得ないところで思わぬ敵をつくってしまっていたことに、彼女は動揺を隠すことが出来ない。


「貴方、どうして…」

「……ご無沙汰しております、アリアナ王女殿下。殿下ご自身にはなんの恨みもございませんが」


―――カチャリ。


鞘から勢いよく引き抜いた剣先をアリアナの白い首元へとあてがい、滔々と"マルク将軍"は語る。






「ユースヒトリ、ひいてはジーファ王子殿下――我が主君の未来のために。そのお命頂戴いたします」






血の気が引く、とはこういうことを言うのだろう。

何の迷いもない剣先。真っすぐとした、純粋すぎるほどの信念を携える炯眼に囚われて身動きすらままならない。






「――では、約束通り私たちはここで退散するとしよう」


満面の笑みで語り出した侯爵。驚いたアリアナは咄嗟に将軍から目を離してしまう。

それと同時に喉元へと鋭い剣先が軽く食い込む。

慌てて視線を戻すと、尚も射殺さんばかりの炯眼が虎視眈々と彼女の命を狙っていた。


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