レンダー・ユアセルフ



その様子を愉快で仕方がないといった面持ちで見つめていた侯爵は、去り際に更に驚きべき言葉を口にする。


「素晴らしい計画の立案と、自ら泥をかぶるその志に心から敬服しますぞ、将軍。まあ…もうお会いすることもないでしょうがな」


独房の中でもお元気で、と。まるで自分は全く関与していないかのような口ぶりで言い残し、侯爵や家臣たちの背中は小さくなっていく。






「汚いわ!貴方だけ捕まらないように逃げるだなんて!」





思わず激昂したアリアナは侯爵の背中に向かって叫ぶ。けれど、返ってきたものは高らかな笑い声だけだった。

悔しさに震える彼女は、捕らえられていることも忘れ将軍に向かって声を張り上げた。




「貴方、これでいいの!?侯爵を庇って、自分だけ捕まろうとするなんて!」




まさか喉元に剣先をあてがわれている姫君がそんなことを言うなんて、一体誰が想像できるだろう。

マルク将軍は驚きに目を丸くする。






「……私が邪魔なことは分かったわ。けれど、貴方が今していることを見て一番悲しむ人は誰なのかしら」

「……」

「他ならぬジーファだと思わない?」



諭すように青年を見つめて語り掛けるアリアナ。

そんな彼女の姿勢を前に、将軍は尚も剣先を首元へ向けたままだ。


< 149 / 162 >

この作品をシェア

pagetop