レンダー・ユアセルフ
「……顔を上げて」
ふわり、と。蜂蜜色に広がる髪を風に靡かせ、しゃがみ込んだ彼女は青年の肩に手を掛ける。
未だ地面を向いたままである彼の頭部を見つめ、ゆっくりと語り掛けた。
「貴方の願いはもちろん叶えます。それと、貴方が始め不安に思っていたことも詳しく教えて欲しいの。すべての事柄にはちゃんと解決策が用意されているものよ」
無邪気な笑顔で告げるアリアナ。
ゆっくりと顔を上げた青年は、眩しそうに目を細めて彼女を見つめていた。
「人には、神様から"言葉"っていう素敵な贈り物があるんだもの。何事も語り合わずに、正しい答えを導き出すのは大変じゃない?」
ウインク混じりに彼女がそう告げた次の瞬間だった。
――キキィィィッ
猛スピードで彼ら目掛け向かっていた馬車が、目の前で急停止するものだから目を丸くする。
対するマルクは何か知っていそうな笑みを浮かべ、馬車に向かって敬礼をした。
アリアナは胸の高鳴りを止められない。すべて視界に移りゆく光景がスローモーションのように感じられ、ゆっくりと馬車の扉が開け放たれる。