レンダー・ユアセルフ
/シャムス国王の秘密
「……なんと私は愚かだったのか」
静かな空間にじわり、男性の吐き出した言葉だけが沈み込んでいく。
懺悔とも後悔ともとれるその言葉尻は、彼がひたすらに手を握り眸を向ける女性へ宛てたものだった。
か細い電子音。乳癌の末期であると医者に告げられた彼女は、もう一週間も目を覚ましていない。
「早くに気付くべきだったのだ。お前こそが私の支えだと」
彼の妻は豪華絢爛な暮らしを愛する女性だった。そんな彼女から虐げられながらも、懸命に働くこの女性を彼は見初めた。
今までなんと愚かに国を動かしていたのだろう。
王妃に言われるがまま、彼女の機嫌ばかりを窺い政治的な判断を下してきた。そんな彼の心を動かしたのは、既に余命を宣告されている一人の女中の言葉だったのだ。
『国王陛下。許されるならば、最後に一つだけお訊きしてもよろしいでしょうか』
つい半年前のことだ。これまで大勢いる女中の一人としてしか認識していなかった彼女が、退職願を手に最後の謁見を志願した。