レンダー・ユアセルフ
/ミーアの想い人
『アリー』と名乗る未亡人がこの地を去ってから、二年の月日が流れた。
始めこそ時折暗い面持ちで思案に暮れることもあったジョシュアだが、段々と元の穏やかな彼の表情に戻りつつある。
隣国との外交に関する書類の処理に追われていたジョシュアは、固く閉ざされた扉の向こうへと一度視線を投げかけると。
「ミーア」
誰よりも彼に対し真っすぐに向き合う女中の名を口にする。
「はい、ジョシュア様」
失礼します、と。丁寧なノックの後に豪奢な扉からすり抜けるかのように現れた華奢な彼女。
少女から女性への成長を思わせる彼女の外見は、かつてジョシュアに慕われた女中の面影を色濃く残していた。
「ここにある書類を郵送してくれる?」
そうジョシュアが指差す先には、すでに封を施されたエアメールが山積みになっている。
「承知いたしました」
「悪いね、ミーア」
「とんでもございません」
今では政務に励む彼の秘書のような存在になっているミーア。彼女の真摯な仕事ぶりは、幼いころより親しくしていたジョシュアが誰よりも知っていた。
指定されたエアメールを懐から取り出したトレイにてきぱきと移し替え、その作業が終わると「他には何かございますか?」と彼に問う。