レンダー・ユアセルフ
近頃、彼はミーアとこうして話すたびに昔アリアナに言われた言葉を思い出す。
『――…貴方の事を心から想う女性が一人この地にいることを、私は知っているわ』
颯爽と部屋を後にしたミーアの小さな後姿を見守りつつ、とても穏やかな感情に身を置いていた。
あの頃は目の前のことしか見えていなかった。端的に言うと、アリアナこそが全てだと信じて疑わなかった。
もしも一緒にシャムスに渡ってくれなかったら。一度も情熱を直接ぶつける機会をもらえなかったら、悲しいことに僕はずっと君を想い生涯を終えたんだろう――…彼はふと思う。
ミーアがこんなにも慈愛に満ちた――いや、愛情に満ちた眼差しで彼を見つめていることにすら、気付かないままだったに違いない。
カラッと晴れた気持ちの良い空を見上げる。大きな窓枠を思い切り引き上げれば、小鳥たちの囀《さえず》りが耳朶を撫ぜた。
「…さて、僕も一段落させますか」
再度デスクに向かい一度大きく伸びをした彼は、書面の続きから目を通していく。
その胸の内には、少し後に訪れるであろう二人きりのお茶会への期待が膨らんでいたことは言うまでもない。