レンダー・ユアセルフ
* * *
「アリーちゃん。今日はまたえらくべっぴんさんだねぇ。そら、おごりだ」
「まぁ!ありがとうございます、店主殿」
目の前に綺麗なマーブルを誇るカクテルが置かれる。
この酒屋に初めて足を踏み入れたのは、ちょうど今から三ヶ月ほど前のこと。
それから両親の隙を突いてはこうして足繁く通っている、というわけである。
当初代わりの名など用意していなかったアリアナは、名を訊かれてひどく狼狽したものだ。
そこで幼いころの愛称がぽろりと口から飛び出した。
「アリアナ」ならば誰しも王女然たる彼女を思い浮かべるに違いないけれど、「アリー」ならばこの城下町でも然程珍しい名では無いため、気付かれることもないに等しい。
身代わりの侍女の名を出しても良かったのだが、この侍女服は王宮に仕える者の証のようなものだ。もしも風の便りか何かで侍女頭の耳にでも入れば、遊び呆けているとされる彼女を解雇しかねない。
実際彼女はアリアナの身代わりにされているだけで、なにも悪いことなどしていないのだから酷な仕打ちである。
「なんだか今日は溜め息が多いねぇ、アリーちゃん。御主人に虐められでもしたかい?」
「いえ、そうではないのですが…。というか、虐められる……というと?」
「そりゃもう、使用人を奴隷のように扱う連中のことだよ。アリーちゃんは王宮の侍女さんだからそうか、知らないのも無理ないよなぁ」
「そんな無骨な方がこの国にいらっしゃるのですか!?」