レンダー・ユアセルフ
大口を開けて勢いよく立ちあがったアリアナ。
その際響いた椅子の音が周囲の視線を集め、羞恥に頬を赤く染めた。しずしずと小さくなりながら座りなおせば、眼前で彼女の動向を見守っていた店主がぶるぶると肩を震わせる。
一瞬で笑われていることに気付いたアリアナは、「なにも笑わなくても…」と口にするなり、しょぼんと肩を落としてしまった。
そんな彼女を見て慌てたらしい店主は、なにか明るい話題に変えようと矢継ぎ早にこんなふうに切り出した。
「アリーちゃんは美人さんだからなぁ。今話題の『貴公子殿』に狙われないよう、注意しなきゃならねぇぞ?おじさん心配だからなぁ」
「貴公子…殿?」
「本当の名は誰も知らないらしい。なんでも、たいそう立派な金髪に碧眼の美丈夫で──」
「そ、その方が一体なにをなさっているのですか!?」
小動物を彷彿とさせる小顔の割に大きな瞳が、無意識の内に大きく揺れ動いた。
アリアナの胸中を動揺一色が埋め尽くす。
──金髪に碧眼。まさしく、先ほど言葉を交わした青年の様相と同じだわ…。
穏やかな笑みで好意的な印象しか受けなかったのだが、彼は一体何者なのだろう。
刻々と比重をかさねていく疑問に畳み掛けられるように、口を衝いて言葉がこぼれおちてしまったのだ。
そんな彼女の剣幕に気圧され、店主は一度おおきく目を瞠《みは》った。
「うん。実はなぁ、ごく最近の話なんだが…」
その後聞かされた話は彼女にこれ以上ないほどの衝撃をもたらした。