レンダー・ユアセルフ
「どうか、そう御気を張らず」
「ど、うして…」
「貴女にもう一度お逢いしたくて。戻ってきてしまいました」
予想を遥かに上回るほど甘い言葉が覆い被さってくる。
瞳を上げた彼女の視界に映ったのは、金髪碧眼の彼ひとりきり。昼間に彼女がぶつかってしまった、背丈の低い男子を伴ってはいなかった。
──ふたりきり。その現状が、恐ろしくもあり嬉しくもある。
矛盾した自らの思いに頭を悩ませながら目を瞬かせ、震える唇でアリアナは言葉を紡ぎ出した。
「……、わ、私は結構です。どうぞ、お引き取りを」
他ならぬ自分の口から放ったその言葉が、彼女の胸にチクリと微かな痛みを与えた。
初めて彼に逢ったときから、どこか変だと思っていた。自分はどうしてこんなにも動揺しているのか。王女として人前に出るときでさえ、これほどまでに緊張が胸を支配したりなど、しないというのに。
震える睫毛をゆっくりと伏せ、一揖《いちゆう》した彼女はすぐさま走り去ろうと足を踏み出す。
しかしながら、そんなアリアナの行動をジーファは赦してくれなかった。
「……僕は貴女の秘密を知っている」
痛いほど腕を掴まれながらゆるりと耳に飛び込んできた低い音韻。
ひたり、彼女の背筋を冷や汗がつたう。ただでさえ大きく鼓動していた心音が、壊れそうなほど早鐘を打ってゆくのを痛感せざるを得なかった。