レンダー・ユアセルフ
「貴方は一体…、何者なの」
「僕に興味が湧いた?」
「そんなはずないじゃない。明らかに怪しいから聞いているだけよ」
これ見よがしに不信感を露わにした面持ちで問い詰める彼女に反し、ジーファは出逢った瞬間を思わせる穏やかな笑みでその表情を彩っている。
──こんな男に惑わされている場合じゃないわ。…でも、従わなければお父様のお顔に泥を塗ることになる…。
自業自得だということは痛いほど解っていた。だからこそ、この事態を打開するためアリアナは全神経を働かせて目の前の男と対峙する。
「着いたよ。この部屋に入ってくれる?アリアナ王女」
「……その名前で呼ぶのはやめてもらえないかしら。噂の貴公子殿」
「噂の?」
「そうよ。貴方すごく有名みたいじゃない。お知り合いになった女性は数知れず、なんでしょ?」
「きみに知ってもらえるなんて光栄至極だよ、レディ」
そう呟くと同時に、育ちの良さを思わせる自然な動作で跪《ひざまず》き、彼女の手を導く彼。
社交界の礼儀として得心する挨拶──この場合は女性の手の甲へおとすキスのことだが──を受けたアリアナは、腹心ある疑惑が浮上していた。
──この男、もしかして。私のことを知る貴族の人間なんじゃないかしら…。
瞠目した彼女の瞳が人知れず揺れ動く。まさか同じように城下町へくだって放浪する貴族の人間が居るなんて、予想すらしていなかった事だからだ。