レンダー・ユアセルフ




しかしながらその考えは浅はかだったと、浅慮だったと。彼女自身認めざるを得ないのが現状であった。

ともすれば、これまで思い込んでいただけで実は彼の他にも擦れ違うなりした高位な人間も居るのではないだろうか。






「で、入るの、入らないの?」






部屋の扉を開けながら、口角を上げ挑発的な台詞を口にするジーファ。



悔しさに思わず奥歯を噛み締める。男の用意した部屋に入るなど、相手の思惑のとおりに動くようで癪に障ったからだ。

しかしこの場所で抗議を唱えるなど、まさに相手の術中に陥ることになるだろう。






「……いいわ。開けて」

「へぇ、肝の据わった王女様だね。それとも単なる考えなし?」

「何とでも。ただ、貴方には死ぬほど後悔させてやろうとは思うけれど」

「なにを?」

「私に対する言動全てにおいて、よ」






アリアナは特段、王女であることを前面に押し出し居丈高に振る舞うつもりなど無かった。

けれどこの男が相手となれば話は別である。相手が彼女の秘密を盾に命運を意のままに操ろうとする輩であることを知って、こうする他ないと胸奥で決断を下したのだ。



だからこそ王女然たる態度で強気な台詞を口にした。

そんな彼女の変化を、かのジーファは殊更興味深げに頬を緩め観察する。





矯《た》めつ眇《すが》めつ、舐めまわすような視線を受けたアリアナは、隠しつつも戦慄した。






「……いいね。ようこそ、お姫様」






なにが『いい』のかは全く以て理解できなかったが、とにかく他人の目に付く場所は避けなければなるまい。

動揺など微塵も態度に出さず、鷹揚《おうよう》とも言える調子で点頭をおとした彼女は、しっかりとした足取りで開かれた戦場への扉を掻い潜ったのだった。




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