レンダー・ユアセルフ
パタン、彼が後ろ手に扉を閉める音が耳に届く。
その瞬間眩いばかりの照明が彼女の視界に光をもたらした。急激に明転したことにより、驚いたアリアナは瞬きを繰り返す。
今になって見れば、ここは瀟洒《しょうしゃ》な造りの洋館らしい。
凝った造りの家具が幾つも置かれ、その奥には大きな窓が外の景色を覗かせていた。
すっかり宵に染まった街頭を目にし、いくら勝手であっても身代わりにした侍女の安否が気になってしまう。いつもならば疾うに帰っている時間なのだ。
こんなにも遅くなったのは初めてだった。
アリアナが侍女の心配をしていることなど露も知らぬジーファは、真直ぐに窓に向かうなり両側に止められていたカーテンの束をほどいてしまう。
シャッ、と音を立ててガラスを覆ってゆく大きな布地。完全に閉められたその瞬間、彼女は唯一の外との繋がりが絶たれたことを理解した。
そしてゆっくりと身を反転させた彼は、彼女と再び向かい合う。
「さて、アリアナ王女。どこから話させていただこうか」
彼が浮かべる艶笑の中で煌めく、サファイアの眸。それはまるで、全てを見透かす水晶のようだと彼女は思った。