レンダー・ユアセルフ
/ロイヤリティな誘拐犯
──アリアナがジーファと共にとある一室の扉を潜った瞬間と、同時刻。チューリア国、後宮内にて。
「アリアナ!聞いてちょうだい、アリアナっ」
バタン、と大きな音と共に巨大かつ豪奢な扉が開かれる。
そして姿を現したのは、煌びやかなドレスに身を包んだアリアナの姉君──そう、チューリア国第一王女その人であった。
興奮を露わに突き進む彼女。向かう先には、もちろん疑う余地もなく妹の姿が在る。
「本当におめでとう!心から祝福するわ。やっと貴女にも、良縁のお話が舞い込んで…」
──そう、思い込んでいたのだ。何故ならばここはアリアナの部屋だから。
まさか中央の椅子に腰掛けるドレス姿の女性が、妹のアリアナではないなど予想できる筈もない。
「えッ、!?あ、貴女…!」
姉である彼女が肩に手を置いたのと時を同じくして、身代わりとして置いていかれた侍女が弱々しい表情で振り向いた。
それを目の当たりにした姉は、それはもう驚いたのである。驚天動地と言わんばかりに。
「お嬢様……申し訳ございません。本当に、申し訳ございませぬ!」
戸惑う姉をまともに見ることも叶わず、侍女は必死に頭を下げて許しを乞う。
しかしながらその姿は、見紛うことなく豪華絢爛なドレス姿。故意でなければ、侍女である目の前の女性がアリアナの姿に扮することなど有り得ない。
しかもかの侍女は、アリアナが一番に信頼を置き『友人』とも呼べる仲だと聞いたことがある。
「…これは一体どういうことなのか、説明してくださる?」
ようやく平静を取り戻した彼女の声色は、この国の第一王女に相応しく凛としていた。