レンダー・ユアセルフ
自らが後宮に留まらなかったせいで、このような事態に発展した。幾ら他の人間が気を遣い否定しようとも、聡明な母は悔やむことを止められなかった。
「あの子は本当に、お転婆ですから…」
溜め息と共に吐き出されたリリアの言葉ですら、慰めにもならない。
誰かに誘拐されたとは考え難かった。それほどまでに、アリアナは何事にも好奇心旺盛だ。
きっと外の世界に焦がれ、自らの足で城を出てしまったのだろう──それは三人に共通する考えで、伴って身代わりにされた侍女を責める気持ちなど更々無かった。
重苦しい空気が部屋の中を包み込む。
これから一体どうすれば良いのか、混乱しているだけに最善の策が脳裏を掠めてはくれなかった。
人の口を封じることは殆ど不可能に近い。王女が失踪したなど、もしも他国に知れ渡れば、アリアナの評判は一気に地に落ちてしまうだろう。
先日いただいた良縁の見合い話でさえ、無かったことにされてしまうに違いない。
「国王様!」
人払いを済ませていたおかげで、この部屋に他の人間は居なかった。
水を打ったようにしんと静まり返った室内に、ふと響いた叫号。臣下によるその声は一聞して切羽詰まっていることを物語っており、躊躇うこと無く王は部屋へと招き入れる。
漸く顔を見せた彼の表情は、酷く青ざめているようだった。
「大変でございます…!先刻、文書が届けられたのですが──」
そして続けられた言葉に、三人は同様に茫然自失としてしまうのだった。