レンダー・ユアセルフ
* * *
「ずいぶんとお気楽な構えだね。それとも、諦念の域に達した?」
「貴方が同じ空間に居るだけで迂闊なことができないのよ、誘拐犯さん」
「あらら、相当嫌われちゃったね」
眸を眇めてそんな言葉をおとしつつ、反して表情は嫌になるほど朗らかである。
アリアナは目の前の男がどうしてこんなにも余裕綽々としていられるのか、心底理解できず半ば呆然としていた。
仮にも一国の王女である。そんな肩書きをもつ彼女を、当人の意に反し軟禁しているというのに。
この事が父王の耳にでも入れば、一体どんな重罰を受けなければならないのか…まさか、それが判らないのだろうか。
「貴方……いったい何者?」
とうとう痺れを切らしたアリアナは核心をつくように切り込む。
横目でその様相を捉えた男──ジーファは、臆するでもなく滔々と語り始めた。
「そうだね。隣国の王家の人間…と言えば信じる?」
「なッ、!」
「予想もできなかった?まあ、そうかもね。まさか他国とは言え王族の者が市井に紛れているなんて、思わないだろうし」
そこで語を切った金髪碧眼の美丈夫は、逸らしていた顔を再びアリアナのそれと向かい合わせた。
その水晶のごとくサファイアを思わせる瞳には、激しく瞠目した蜂蜜色の美少女が映し出される。
「でもそれは、きみにだって言えることだ。違う?」
見事な切り返しを見せた青年を、固唾を呑んで睨み返すアリアナ。