レンダー・ユアセルフ
「まさか貴女がこのような場に出られようとは。高嶺の花と称されるその美しさに一目触れたいと願っておりましたが、今夜ようやくそれが叶いました」
わざとらしくもそう口にしてみせるものだから思わず睨み付けてやりたくなるものだ。
しかしながら、今現在の自らを顧みるとそんな粗相を仕出かす訳にもいかず。
平素ならば、普段のように「視察」を称し街へとくだっているときの彼女だったなら。
間違いなくこんな男の相手などしていなかっただろうし、ましてや今のように微笑み掛けることなんて絶対にし得なかったに違いない。
「……身に余るお言葉ですわ。殿下ほどのお人であれば、たいそう麗しき女性からもお声を掛けられているに違いありませんのに」
余りに気分を害されたのでそれとなく嫌味をぶつけてみる。
けれど、当の青年は飄々たる態度で「まさか」と艶笑を浮かべてみせた。