レンダー・ユアセルフ





用意していた反論の言葉すべてが、音を立てて崩れ去っていくのを強く感じた。それほどまでの衝撃を彼女は受けてしまった。

貴族の人間なら…有り得るかもしれない。そう思った。けれど、まさか、同じ王族の出自たる相手だったなんて。

しかもそれは、他国の中で特に列強と謳われる──








「ユースヒトリ国第一王子、ジーファ。姫君…以後、お見知りおきを」








優雅な動作で一礼し手の甲へと唇をおとした相手を、揺れる瞳孔で凝視するアリアナ。

彼女自身、自分はなんと分の悪い相手に喧嘩を売ってしまったのかと、激しい後悔の念に苛まれた瞬間だった。












宵の空がだんだん明けてゆく。

あれからそんなにも時間が経ってしまったのかと、やけに冴えた頭で思惟する彼女。



今頃王宮ではたいへんな騒ぎが沸き起こっているのではないか。身代わりに置いてしまった侍女は無事なのだろうか。

すべての原因が彼女自身にあるのは火を見るより明らかで、だからこそ、沸々と胸を焦がす自責の念は止められない。

だがこんな思考ばかりに囚われていても仕方がないことは、当のアリアナ自身痛いほど理解していた。








「ねえ、貴方」

「ジーファだ。そう呼ばないなら、返事はしないよ」








こんな返しを食らうのも出逢ってから数え切れないほどだった。

そのたびに眉間に刻む皺を増やすアリアナを、愉しげに見つめる美丈夫。起こす行動すべてがこの男の手の平で転がされている気がして、一向に心が休まらない。



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