レンダー・ユアセルフ






「……、ジーファ」

「よくできました」






ようやく身体の向きを直してアリアナへと視線をおく青年は、どうやら彼女の気を触れさせる才をお持ちのようだ。

一々突っ掛かるような物言いをする他国の王子というこの青年に、アリアナの中で怒りよりも諦めが勝る。これはこういう男なのだ。そう思ってしまうほうが、これまでよりも幾分か気が楽だった。







「私を拘束する目的は、何?そろそろ教えてくれても良いと思うのだけれど」

「…その予定だったのだけど。どうやら、きみの御父上は相当な片情張りらしくてね。僕としても困っているんだ」

「ッ、お父様に何か言ったの!?」







がたりと音を立てて立ち上がるアリアナ。伴って、彼女が腰を下ろしていた瀟洒な椅子が床に激しく倒れ込む。

その様子をただじっと見つめていたジーファは、次第に蠱惑的な笑みを濃くすると。








「なんだと思う?アリアナ」








もはや彼女に宛て敬称を付けるつもりもないらしく、飄々たる態度でそうのたまった。その矛先を向けられたアリアナは業を煮やすこと必至である。

ジーファの言動すべてが、彼女自身を小馬鹿にしているような気がしてならないのだ。








「知らないわ。だから聞いているの。いいから質問に答えて」









進展しない現状がとことんアリアナを追い詰める。そして心が逼迫《ひっぱく》し、余裕がなくなる。



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