レンダー・ユアセルフ
しかしながら彼はこの国を統べる王なのだ。いくら家族とはいえ、国か娘を選べと迫られたとして「娘」と即答することは許されない立場の男。
アリアナを差し出さなければ、両国の関係は悪化の一途をたどることになるだろう。
最悪のケースに陥れば戦争も免れないのだ。だからこそ容易には結論を出すことができない。
「…アリアナ…」
父王が嘆きとともに頭を抱え込んだ、その瞬間であった。
「国王様!」
ふたたび上げられた叫号。それと共に大仰な音をたてて開かれた、議会室の重く豪奢な扉。
「無礼であるぞ!」…口々にそう言い募る大臣たちを尻目に懸けながら、至極焦りを思わせる表情で飛び込んできた数人の近衛兵たちは、真っ先に国王のもとへと走り寄る。
あまりの異常事態に、兵たちの反逆ではないかと立ち上がる大臣たち。
しかしながらその予想は覆され、近衛兵たちが真実を告げるまえに鷹揚たる態度で室内へと足を進めた一人の青年がいた。
眩い金髪にサファイアを思わせる煌びやかな碧眼。一見して只者ならぬ雰囲気を纏う青年は、穏やかな微笑を浮かべゆっくりと歩みを進めていく。
彼が姿を現した瞬間、室内は水を打ったように静まり返っていた。静謐な空気が、空間をともにする全ての人間の肝を冷やす。