レンダー・ユアセルフ
今宵はユースヒトリとチューリアの辺境、とある侯爵の屋敷にて舞踏会が催されていた。
国境付近といえどもチューリア国に位置するため、まさか隣国の王子が来訪するなど思ってもみなかったのだ。
当日になって急遽その旨が主催の侯爵に知らされたが、すでに王宮をあとにしていたアリアナ一行に伝えられたのは当然この屋敷に足を踏み入れてからのこと。
当然、相応の品を持ち運んでくることの叶わなかった不測の事態に父王は嘆いた。
しかしながら、今回のことは全てユースヒトリ国王の知らぬところで王子が独断したことらしく、目の前で佇む青年は父であるチューリア国王に眉尻を下げてその旨を伝えた。
その姿はさながら儚い精霊のようで。
……アリアナにしてみれば「この男、こんなにも狡猾だったのか」と悪評を高めるばかりだったのだが。
隣国同士の僅かな軋みは大きな争いへと繋がりかねない。
それが解っているからこそ、アリアナ自身弁舌の限りを尽くしてくれた青年に対し有難いと思う感情も消すに消せない。