レンダー・ユアセルフ

/一夜の過ち







「……どういうことです」






ようやく我が城へと帰還することが叶ったアリアナを待ち受けていたのは、彼女にとって決して良い知らせとは呼べないものであった。

無事帰ってきたという祝杯もそこそこに、翌日から始まったのは怒涛の勉強会。しかもその内容というのが驚きである。







「何故私がこのようなことを…!」

「しっ!アリアナ、聞き分けが悪いわよ」








重ね重ね疑問が浮上する。彼女は自らの真隣に机を並べた姉を怪訝な顔つきで凝視した。

彼女の姉であるリリアは、すでに他国の王のもとへと嫁いだ身である。昨夜の祝杯の席では素直に感謝しつつ接することができても、こうして翌日まで母国の後宮にとどまるとは何事か。

帰らなくて良いのか、と度々訊ねるアリアナに対する姉の反応は、言うまでもなく粗忽《そこつ》なものへと変化してきている。…と、姉のことは一先ず置いておくとして。







「しかしっ、どうしてユースヒトリの歴史を学ぶ必要があるのですか!私が育ったのは他ならぬチューリアです!」

「そんなこと分かってるわよ。でも、今やっておいたほうが後々楽できるでしょう?」

「後々…?姉様のおっしゃっている言葉の意味がわかりません!」

「だから、貴女に縁談がきていると言ったじゃないの!」








そこまで言い合いをして始めて、アリアナの目が点になる。激しい言争いの応酬を繰り広げる両者をハラハラと落ち着かない表情で見守っていた講師は、先触れなく立ち上がったリリアを眼前に目を丸くする。

それ以上に驚きを湛えた面持ちを晒したのは、何を隠そうアリアナであった。



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