レンダー・ユアセルフ
噂になるほどのプレイボーイならば、よもや彼女を妃にしたとして浮気をしないと約束できるものでもあるまい。
傷物にされた挙句に捨てられるくらいならば、結婚などしないに越したことはないだろう。
どうにかして父王を説得できないものか。
ベッドに身を伏せた彼女が様々なことを思惟していた、そのときであった。
「…っ」
明らかな気配を感じて窓枠を振り返る。豪奢なカーテンで覆われたそれに映る人影。
ガサリ、今度こそ明瞭に耳に飛び込んだ何かを探る物音に、人知れず彼女の肩は震えた。
そして迷いもせずメイドを呼ぶベルに手を掛ける。あと数秒もあれば深く引くことのできたであろうその紐は、信じられない人物によって奪い取られた。
金色の髪──そして、闇夜に浮かぶサファイアの碧眼。
「なッ!?」
激しく瞠目した彼女は身を慄かせながら長身の男を見上げていた。
一体どこから入り込んできたというのか。仮にも後宮の一室。セキュリティに綻びがあるとは到底思えなかった。
ともすれば、城内の人間をその手の内に懐柔してしまったのか。
「こんばんは、アリアナ」
「……誰が貴方なんかに名前で呼ばせるものですか!」
「これは失礼。王女様」
柳眉を逆立て怒鳴り声を上げかけた彼女の口許を、手のひらで覆いながら彼は微笑みを浮かべる。