レンダー・ユアセルフ
その一見異様な様は、ジーファの纏う妖艶さを更に際立たせているようにも見えた。
小刻みに身を震わせていたアリアナが懸命に自らを奮い立たせている様子に、ジーファはどこか恍惚とした表情で小首を傾げる。
「驚いた?まさかこんなところに来るなんて、思いもよらなかっただろうね」
「───っ、」
「ああ、ごめん。僕のせいで喋れないのか」
潔いまでにするりと離れた隻手を目で追う暇もなく、自由になったアリアナは直ぐ様ジーファに噛み付くように声を荒げた。
「一体なにを考えているの!こんなところを見られたら、たとえ王子とは言え貴方の立場だって──」
「おや。心配してくれているの?」
「そんなはずないじゃない!脅しているのよ!」
思い掛けず含羞に頬を染めたアリアナが、先の台詞を後悔したことは言うまでもあるまい。
確かに彼の言うとおりだ。あれでは、まるでその身を案じているようではないか。
言葉を重ねるたびに激昂していく彼女を、面白そうに見遣るジーファの炯眼。
「……まあ、それもそうだけどね。せっかくのきみとの婚約を蔑ろになんてしたくないし」
「婚約ですって!?誰が許可なんてするものですか!」
「残念だけどほぼ決定事項だよ。きみのお父上はすでに僕を気に入ってくださったから」
何食わぬ顔で吐き出されたその言葉。なんの抑揚も思わせずにそう口にしたジーファを、アリアナは信じられないものでも見る目付きで見上げていた。