レンダー・ユアセルフ




しかしながら、心のどこかで納得する自分も居た。父王の思惑無くして、あのような勉強会が催されるはずが無いからだ。

そして姉の歓喜に満ちた、あの表情。父や姉だけではなく、きっと母も同じく懐柔されてしまったのだ。

彼女の胸奥で、孤独による侘しさがぽつりと顔を出す。







「アリアナ。そんなに悲しそうな顔をしないでよ」

「……だから、呼び捨てにするなって言っているじゃないの」

「言葉に覇気が感じられないけど?」







どうしてこの男はこんなにも狡猾な言動ばかり選んでするのか。

言葉でこそ彼女を労わってはいても、その表情は「愉しい」と言わんばかりのものだった。







「帰ってくれない?少し一人になりたいの」







先刻憤然たる思いを滲ませていたその面差しは消沈しており、部屋に侵入すらしてみせた男相手に背中を見せるアリアナ。

平素の行動からは遠く離れたその行動に、もしも彼女が気概を取り戻したならば愕然とするに違いなかった。それほど、なにも考えられなかったと言っていい。









「ひとつだけ、忠告しておこう」









それは思いの外冷たい音韻として彼女の耳に響いた。




目を見開き、振り返りかけたアリアナの痩躯を拘束するジーファの腕。それは外見に反し、とても逞しいものだった。

彼女の腹部を力強く掻き抱く。密着する二人の身体を強く意識させられて、アリアナは自らの中で揺れる心音が強さを増していくことを実感せざるを得ない。



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