レンダー・ユアセルフ
沈黙が室内を支配していく。その流れそのものが、まるでジーファがアリアナに言わんとする要の寓意《ぐうい》のような気がしてならなかった。
ちらりと視線だけを後ろに流し込めば、彼の整った眉宇が微かに視界に映り込む。
「……、はなして……」
「……」
「ねえ」
自らの声が震えていることにも彼女が気付くことはない。
そんな、瑣末な事に気を配る余裕を今の彼女は持ち合わせていなかったのだから。
しかしながらジーファは違う。彼の腕によって拘束されたことで、不憫にすらなるほど彼女が動揺してしまっていることは早々に窺い知れた。
端的に言えば、それゆえに逃すことはできなかったのだ。
「アリアナ。僕はきみに嘘を吐かない」
「……その言葉自体がウソだとしたら?」
「軽蔑してくれて構わない。伝えなくてはならないことがある」
出逢ったときの彼よりも。彼女を軟禁し酷薄な笑みを浮かべていた彼よりも。
アリアナが似つかわしくないと思っていた軽薄な口調を取っ払ったジーファは、驚くほど真摯に彼女に向け言葉をおとしていく。
「ごめん」
あれ、と思う。次第に混濁していく意識が意味することは、一体何だというのだろう。
腹部にまわされていた腕が持ち上げられ、気付けば彼女の肩を深く抱いていた。
アリアナは困惑する。どうしてこんなにも頭が働かないのか。自分は一体、どうなってしまったのか。