レンダー・ユアセルフ
「きみの飲んだ紅茶に、睡眠作用を促す薬を少しだけまぜたんだ」
「……な、…」
「なにも心配することはない。僕を信じてくれないか…決して悪いようにはしないと約束するから」
一見切なげにも見えるその面差し。しかしながら、された行為を思えばそんな都合の良い感情が擡げてくる筈もない。
だんだんとしな垂れていく身体。その痩躯を受け止めるジーファが最後におとした囁きは、当のアリアナの耳に入ることはなかった。
「……愛している。可愛いアリアナ」
いつでも、何時《なんどき》でもそつ無くこなすジーファだったが、アリアナに関してだけはどうも思う通りに行動することができずにいる。
たとえば、彼女が目を覚ましているとき。彼は決して甘い言葉をアリアナに向けることはないのである。今ですら、彼女が昏倒したからこそ口にしたというもの。
もしも彼が、自分の胸奥に秘める思いをストレートに彼女にぶつけられる人間だったのなら。
この先起こる擦れ違いとは無縁の、穏やかな日常に身を置いていた筈なのだが──。