レンダー・ユアセルフ
身体が熱をあげる一方で、彼女の胸中は焦りや失望に覆われていた。
あの日、あの晩。ジーファが彼女の部屋に侵入し暫く会話を交わしてからの記憶が、可笑しいことに抜け落ちてしまっていた。
裸でベッドの上に横たえられていたアリアナ。もし仮にジーファに純潔を捧げていたとすれば、それはチューリアをも巻き込む驚天動地を呼ぶ事態である。
婚前に王族たる人間が見知らぬ男と結ばれるなど、許されるわけがない。
華奢な唇をわななかせて言葉を発するアリアナを精悍な目付きで見据えたジーファは、一度開きかけた口を閉じてしまう。
──そんなにもアリアナは自分のことが嫌いなのか。僕はこんなにもきみのことを…。
正直にその情熱を彼女に伝えれば良いものを、捻くれた性格が邪魔して素直な言葉を通してくれない。
それにしても、アリアナはもしや知らないのだろうか?
仮にあの夜半、ジーファが彼女の純潔を奪っていたとして。破瓜による痛みは相当なものだと聞くし、起因して血だって出るだろう。
朝目覚めた彼女がどう感じたのかは解らない。けれど、今アリアナが見せている反応が知識を有するものの言動にはどうしても思えなかった。
ジーファは深く思惟に沈む。…白を切りとおすか?たとえ今彼女の心を傷付けたとして、彼はどうしてもアリアナを他の男には渡したくなかった。
今度こそ本当に嫌われてしまうかもしれない。その思惑はジーファの心情を激しく揺さぶった。